研究内容
静電加速器による薄膜試料の高精度分析
静電加速器によるラザフォード後方散乱分光法(RBS)は、2MeVのHe2+を試料に照射した際に後方散乱したHe2+のエネルギーと個数を測定することにより、試料の組成を定量する方法です。特に薄膜試料を非破壊で絶対定量することが可能です。特性X線を使った組成分析では困難な元素の組み合わせ(CrとO、VとN、VとO)の定量精度や、薄膜中に存在するごく微量の酸素を核反応によって高精度に定量する手法を研究しています。
遷移金属酸窒化物の探究
非平衡度の高い材料合成プロセスであるパルスレーザー堆積(Pulsed Laser Deposition: PLD)法により、窒化クロムCrNの窒素サイトに酸素を置換型に固溶させた材料である酸窒化クロムCr(N,O)の合成に成功しました。この酸窒化クロムCr(N,O)をはじめとした遷移金属酸窒化物が示す特異な物性を活かした、超硬工具、スピントロニクスデバイスなどへの応用を検討しています。
超硬工具への応用
酸窒化クロムCr(N,O)は固溶限界範囲において酸素含有量の増加に伴い単調に硬度が上昇することを明らかにしました。窒素を酸素で置き換えるだけで簡便に硬度上昇を図ることができます。また、酸素含有量は合成プロセス中の酸素分圧を制御するだけで簡便かつ精密に制御できるため、従来の遷移金属化合物系の切削工具用コーティング材料の成膜プロセスに1プロセスを加えるだけで、簡便に高硬度コーティングを普及できると期待できます。
更なる高硬度化を目指し、現在は酸窒化クロムCr(N,O)のエピタキシャル成長や窒素を酸素で全置換した酸化クロムCrOの合成に取り組んでいます。
スピントロニクスデバイスへの応用
酸窒化クロムCr(N,O)の電気抵抗率は酸素含有量の増加に伴い単調に増加することを明らかにしました。また電気抵抗率の温度依存性は酸素含有量が少ない試料においては金属的であるのに対し、酸素含有量が多い試料においては半導体的でした。また、金属的な温度依存性を示した酸素含有量が少ない試料は65K以下で半導体的な温度依存性を示すことを確認しました。この特異な電気的特性の変化には電子相関が大きく関係していると考えられ、現在、原因の究明やスピントロニクスデバイスへの応用の可能性の検討を行っています。