研究内容
本研究室においては、(1)環境技術、(2)環境・プロセスデザイン、(3)ナノ秒技術、(4)3Dナノテクノロジー、(5)新規プロセス開発の5つのテーマに取り組んでいます。
指導教員の中山は、金属工学科、応用化学科、電気電子情報工学科、機械工学科などの学科で学んできた経験を有していますので、これらの分野のどの分野を背景に持つ学生さんでもそれぞれに適した研究を提案することができます。また、基礎研究から、社会にすぐに役立つ研究まで幅広い研究テーマに取り組んでいます。特に高専卒の学生さんはモノづくりを実感できたり、実用化への道筋が分かりやすいテーマが好きな学生さんが多いので、そのようなテーマを多く設定しています。
現在の学生の研究テーマはメンバーのページからご覧いただけます。また、競争的資金に採択されたプロジェクトはプロジェクトのページからご覧いただけます。2020年4月現在は「次世代ドローン」、「ナノ秒パルス回路」、「IoTシステム開発」、「感触センサーのロボット応用」、「燃料電池製造プロセス」に関するプロジェクトを実施しています。
本研究室に配属された学生の全員には、コグニティブサービス(広い意味で言えばAI、より厳密にはAugmented Intelligence=拡張知能)のスキルを必修としており、そのほかに各自のテーマに合わせ、無機材料科学(特に結晶工学)、電気回路、機械工作、組込みシステム、シミュレーション(ANSYS、SPICE)、外国語、プログラミング(Python、MATLAB)などの中からいくつかのスキルを基礎スキルとして習得してもらっています。また留学生には日常日本語の取得を強く推奨しています。
環境・プロセスデザイン研究室のグランドデザイン
ナノコンポジット(材料科学)とナノ秒パルス電源開発(電力工学)に関する本研究室が有するオンリーワン技術をコア技術とし、環境とプロセス(=ものづくり)における諸課題に対し、先端技術の社会実装による問題解決といった工学的意義だけでなく、SDGsの解決に資する社会的意義をもった真に役立つソリューション(問題解決方法)を提案していきます。
学生さんには英語・ITのリテラシー(=有効活用できる力)の獲得や材料科学・電力工学に関する研究スキルの習得だけではなく、「デザイン力」すなわち「構想力」を養ってもらうことを意識したテーマ設定をしています。
近年の主な研究例の写真
開発中の無人電気飛行機のテストフライト ドローン用に割り当てられた新帯域を使って通信実験を行います。 (総務省プロジェクトSCOPEの成果) 日刊工業新聞 掲載 (2019.10.16) 日本経済新聞 掲載 (2019.10.9) |
IoTデバイスの試作 BLE(Bluetooth Low Energy)でコンプレッサーの動作状況をスマホに送信します (NEDOプロジェクトの成果) Adv. Energy Mat., vol.5(13), 2015のInside Front Cover 日本経済新聞 掲載 (2020.3.6) 日本経済新聞(1面) 掲載 (2015.7.3) |
左、自作のナノ秒パルス電源 右、誘電体を超高速分極することのできるナノ秒パルスポーリングシステム (科研費 基盤研究Aの成果) |
人協働ロボット (Universal Robots社 UR3e型) を用いた無機材料作成実験 プロセス時のパラメータを取得することが出来る。 スマートファクトリーの実証実験 |
左 感触センサー用有機無機ハイブリッドの内部構造 右 実用化した感触センサー (朝日新聞掲載 2016.5.14) |
ナノ秒パルス電場を用い有機無機ハイブリッド材料中の無機フィラーの内部構造制御技術を確立。 日本セラミックス協会 学術写真賞受賞 (日刊工業新聞 掲載 2015.9.15) |
ナノレベル3Dプリンタで造形した酸化亜鉛(ZnO)構造体 CADでデザインした3Dナノ構造をそのまま造形可能 |
ナノコンポジット化により繰り返し自己修復機能を付与した次世代航空機用タービン材料 釧路高専に赴任したSon先生の紹介記事 Adv. Eng. Mater. 2020, 2000157 |
左 ナノ秒パルス電気凝集法による汚水浄化システム 右 染色工場からの黒い排水を浄化した結果 Environ Technol . 2019 Nov 21;1-9. |
(1) 環境技術
1. 環境低負荷型のプロセスの開発
産業用ロボットが発達し、省力化すればするほど、どんどん製造時のCO2排出量が増えてしまうというジレンマが生まれています。これだけ省エネが進んだ我が国ですら、二酸化炭素排出の28%が産業部門によるものです。本研究室では、省力化と環境低負荷を両立した新たなプロセスの提案と実証を行っており、このようなものづくりにおける総合的なエネルギーマネージメントに関する取り組みも本研究室においては推進しています。
(2) 環境・プロセスデザイン
1. 循環型社会システム構築
わが国では、高度にスマートな社会づくりとしてSociety 5.0の提案を行っています。本研究室においても、ITを様々な社会システムと融合した循環型の社会システムの構築に向けた提案と実証を行っています。
2. 環境浄化技術
本研究室においては、これまで、低温で大気中の汚染物質を浄化することの出来る触媒材料の合成や、水を浄化するための大きさのそろった微細な穴の開いたセラミックスフィルターの製造、液中プラズマ法による汚染水の浄化などの課題に取り組んできました。直近では、これらに加え、カタールからの留学生を中心に、近年環境問題がクローズアップされているペルシャ湾の水質改善に関する取り組みを行っています。
3. エネルギー変換・蓄積技術
本研究室では、太陽電池、燃料電池、リチウムイオン電池などの電池材料の改善に関する研究に取り組んできました。近年では従来にない新たなコンセプトによるエネルギー変換技術や、蓄熱技術に取り組んでいます。これらの技術は電気・機械・化学・材料など多くの研究分野の境界領域であるともいえますが、このような境界領域は本研究室の最も得意とする分野といえます。また、エネルギーを変換したり、蓄積することも重要ですが、それをうまく運んだり分配することも重要です。我々は熱エネルギーの運搬や分配に関する技術(=サーマルマネージメント)についても取り組んでおり、サーマルマネージメント材料の分野において多くの成果を上げています。
2. イノベーション創出スキームの提案
シェアリングエコノミーや循環型社会など新たな社会のしくみづくりの提案と実証研究を行っています。このような取り組みは、大人数を対象にするとなるととても実証が困難です。そこで、我々は比較的小さなコミュニティ(地方都市・鹿児島県長島町やモンゴル国)をターゲットとし、これらの地域におけるスマートな社会システムに必要な技術開発を進めています。
(3) ナノ秒技術
1. パルスパワー技術
本研究室は、極限エネルギー密度工学研究センターというセンター内で実験をしています。このセンターはパルスパワーに関する世界でも有数の研究室です。様々なパルス電源を開発し、それを用いた利用技術に取り組んでいます。電源設計が好きな人もいますが、本研究室の多くの学生はこの特殊な電源を利用して新しい材料を作ったり、環境を浄化したりする利用技術の開発の方が盛んです。
2. 協奏場形成技術
加熱と超音波や、電場と毛細管力など、複数の「場」が組み合わさることで新しい化学反応やプロセスを生み出すことができます。我々はこのような複数の場を組み合わせることで新規な環境浄化方法や材料プロセスを開発しています。
(4) 3Dナノテクノロジー
1. セラミックス科学と高機能材料
本研究室の中山は大阪大学在籍時から新原晧一先生(前、本学学長)の研究グループにおいてナノコンポジットという材料設計概念に基づく開発研究を行ってきました。このナノコンポジットのコンセプトは、いわゆる複合材料とは一線を画したもので、これまでセラミックスの基本単位構造であると考えられてきた結晶粒の内部の構造をさらに制御することによって、セラミックス材料が有する様々な特性の向上が可能であることを提案するものです。我々はこの世界に先駆けて提案したコンセプトをさらに拡張展開し、このオンリーワン技術を磨いています。
2. ロボット用センサー開発
有機無機ハイブリッド材料の中には、圧力によって電気伝導性などの特性が変化するものがあります。我々はこの特徴を生かして、人間の触覚に相当する「感触センサー」へと実用展開しています。家庭の中で活躍できるロボットにおいては、安全性の確保やより高度な動きの制御の観点から、可動部表面の接触センシング能が必要不可欠です。我々はナノハイブリッド技術を駆使し、この問題の克服へチャレンジし、多くの実用展開に成功しています。
3. 三次元プリンタ技術
本研究室においては、μmレベルの精度を有するいわゆる通常の三次元プリンタに加え、二光子励起法というフォトリソグラフィの手法を用いたナノレベルの三次元プリンタを用いて研究を行っています。マイクロレベルの三次元プリンタは主に装置のパーツの試作検討に、ナノレベルの三次元プリンタはナノレベルで自由自在に好きな形を造形できるので、ナノマシン、ナノバイオ、ナノ流路、ナノフィルターなどの分野に適用しています。
4. ナノバイオ&次世代農業用ナノテク技術
バイオテクノロジーとナノテクノロジーは非常に融合性の高い技術であり、これらの融合研究は工学部だけでなく、医学部、薬学部、農学部、理学部など、多くの研究者が取り組んできている熾烈な研究領域でもあります。本研究室においては、ナノ秒パルス場や、ナノコンポジット、ナノハイブリッドなどのオンリーワン技術を有していることから、これらの技術とバイオテクノロジーの融合した独自の研究を推進しています。過去にはコレステロールセンサーなどのバイオセンサーに関する研究を行ってきました。近年では特に"Precious Matter"(直訳すると貴重な物質)と呼んでいる、ある特定の細胞において合成される医薬品の原料となる分子の抽出技術や、次世代農業のためのナノテクノロジーによる新展開などについて取り組んでいます。
(5) 新規プロセス開発
1. 材料創生プロセス開発
本研究室においては、これまで多くの独自の材料合成、組織制御プロセスを開発してきました。例えばナノ秒パルス電場を用いた材料合成や組織制御、ナノ材料のモーションコントロールなどが代表的なものです。近年ではハイスピードカメラなどの超高速計測技術も発展しており、これらのプロセスの現象解析やシミュレーション技術の活用も進めており、闇雲にパラメータを振るのではなく、より効率的な研究体制を構築しています。
2. 次世代ものづくり手法開発 (Industrie 4.0)
近年、世の中の様々なモノにセンサーを取り付け、これから得られるデータをネットワークで集積させ、この膨大なデータ(ビックデータ)を解析することで新たなソリューションを提供するという考え方(Internet of Things ; IoT)をモノづくりの製造現場に取り込むという製造革命(Industrie 4.0 ※"Industrie"はドイツ語です。アメリカではIndustrial Internetなどとも言われます。)のコンセプトが進んでいます。このような技術を進めていくことで、これまで熟練の技術者にしかできなかったような高精度のモノづくりがロボットでできるようにもなってきていますし、なぜか突然不良品が出始めた時にもその原因解析が速やかになされるようになっています。本研究室では、このような新しいモノづくりの手法を材料創生プロセスに適用する取り組みを行っています。