大塩 愛子(Oshio Aiko) | |
所属:生物統合工学専攻 |
近年、都市におけるヒートアイランド現象が問題になっている。緩和対策の一つとして緑化が有効と考えられているが、都市部では緑地帯の確保が困難であるため、建物の屋上や壁面を利用した緑化が注目されてきている。
屋上緑化には荷重や漏水、防根などの制約条件があり、また、植物にとっても高温・乾燥のため生育困難な場所でもある。そこで、無機質な面にも生育し、乾燥しても水を与えると再生し、成長を再開することができる特徴をもつコケ植物を用いることで、建物緑化の普及を促進することが可能だと考えられる。
Fig.1に示すように、コケの生活環には原糸体と呼ばれる期間がある。茎葉体よりも原糸体の方が成長が速く、光合成により独立栄養が可能な個体であるため、大量培養が可能だと考えられる。
目 的
コケ植物を用いることで、土壌を用いた人工基盤が不要になり、さらに施工過程を簡素化できれば、より大面積への施工が容易になると考えられる。これらのことから、細胞工学的なコケの増殖法と、増殖後のコケを実際の緑化資材として利用する方法について研究することを目的としている。
これまでの成果
原糸体は、頂端分裂と分枝分裂の二種類の細胞分裂によって成長しており、5細胞を保持していれば生育可能である。このことから、大量培養には生育中に原糸体を切断させると培養効率がいいと考え、三種の液体培養法と、比較のための固体培養で検討を行った結果、液体通気培養法が適している事が分かった(Fig.2a)。
ここで得られた原糸体を用いてコケシートを作製するために不織布を基盤として検討を行った。Fig.2bのような装置で回転培養したところ、原糸体の接種量や形態によって差はあるが、6cm四方の不織布に短期間で原糸体を展開させることが可能になった。また、18×25cmにスケールアップしたシートへの短期展開にも成功している。
次に、原糸体から茎葉体を人為的に分化させることが必要になる。当初、植物ホルモンを用いて早期の芽分化誘導は可能であったが、その後の茎葉体分化ができなかった。そのため、炭素源として糖を添加したところ、茎葉体の発生には至らなかったが原糸体成長の促進が見られた。また、糖を添加して培養を行った後、植物ホルモンを加えることで芽がシート全体で一様に分散して発生することも分かった。現在、糖と数種類の植物ホルモンを組み合わせて処理することで茎葉体誘導が可能である事が分かった(Fig.3)。
今後の計画
早期の製品化に向け、植物ホルモン・糖添加などによる人為的な茎葉体形成誘導の最適条件を確立し、不織布に展開した原糸体を茎葉体に分化させる。
また、コケ植物は種により適した環境なども異なるため、より屋上・建物緑化に適した種のスクリーニングを進める。
Fig.1 コケの生活環 |
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Fig.2 液体通気培養と回転培養器 | Fig.3 誘導した茎葉体と模式図 |
Fig.4 緑化用シート作製手順 |