飯野 藤樹(Iino Touju) 生物統合工学専攻 微生物工学研究室 |
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PCBは工業的に広く利用されたが、生態系に対する悪影響が明らかとなり1970年代に使用が禁止された。しかし化学的に安定なPCBは、分解されにくく自然環境に残存しており、PCB容器の劣化による漏洩等で新たな環境汚染も生じている。環境中に広く拡散したPCBを回収して浄化することは、莫大なコストがかかるため、現在、微生物によって汚染物質を分解する手法が期待されている。多様なPCB分解菌が単離されているが、分解能力が乏しいため、実用化に向けて分解能力を高めることが求められる。その中でも、当研究室により単離されたPCB分解菌Rhodococcus jostii RHA1株は世界的にトップクラスの分解能を有する細菌である。
汚染環境での分解能力を高める方法として、より強力なPCB分解酵素を生産する細菌の構築が挙げられる。しかし、汚染土壌へ直接細菌を散布するバイオレメディエーションを想定すると、温度、湿度等の様々な因子が複雑に存在、変動する自然環境において、実験室内での結果がそのまま反映されるとは考えにくい。「遺伝子は必要な時に必要なだけ発現する」。つまり細菌は今いる環境に適応するために、必要な遺伝子を発現して居住している。このことから、RHA1株の土壌環境で特異的に発現する遺伝子を調べることで、土壌環境中でのRHA1株の挙動を明らかにすることができれば、その環境に適応したRHA1株を構築して、汚染土壌において最大限の分解能力を発揮させることが期待される。
ある環境で特異的に発現する遺伝子を網羅的に検索する方法としてDNAマイクロアレイ(DNAチップ)技術がある。本研究では、滅菌土壌環境において発現上昇する遺伝子をDNAチップにより網羅的に検索、特定し、その遺伝子の機能を解析することを目的としている。すでにDNAチップにより特定された遺伝子を欠失したRHA1株において、土壌中で生育が低下することを観察し、特定された遺伝子は滅菌土壌での生育において重要であることが示唆された。このような遺伝子機能を強化することで、土壌環境に適応しやすいRHA1株を構築することができると考えられる。今後は、重要な因子と示唆された遺伝子に対する機能解明を目指して行く。
図1 滅菌土壌生育菌体でのDNAチップ解析の結果. |