下平 潤(Shimodaira Jun) | |
学歴: |
ポリ塩化ビフェニル(PCB)は難分解性環境汚染物質の一つで、生体に対する毒性が高く、発がん性、皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常を引き起こします。 PCBは耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性に優れていることから、1950〜1960年代に世界中で電気機器の絶縁油、可塑剤、塗料など幅広い分野で使用されたが、上記のような毒性が明らかとなり使用が禁止されました。しかし、PCBの安定性が非常に高く過去に環境中に拡散したPCBは依然として残存しています。一度環境中に拡散したPCBを回収、除去するためには設備や管理などに多大なコストがかかるため、PCB分解微生物により直接環境中のPCBを分解除去する技術が期待されています。私が所属する研究グループでは、世界トップクラスのPCB分解菌、Rhodococcus jostii RHA1が持つ分解システムの解析を進め、より強力なPCB分解菌の育種を目指しています。
微生物によるPCB分解は幾つかのステップを経て行われることが明らかになっています。RHA1株は各分解ステップに複数のアイソザイム(酵素活性はほぼ同じでアミノ酸配列が異なる酵素)が関与することで高い分解能力を発揮します。これら複数の分解酵素遺伝子の転写はBphS, BphTの2つのタンパク質から構成される二成分制御系によって統御されています。BphSはセンサータンパク質であり、細胞膜に浸透したビフェニルを感知してBphTをリン酸化します。リン酸化されたBphTは特定のDNA配列を認識して分解酵素遺伝子の転写を活性化します。このように、RHA1株はビフェニルとの共存によりPCBを分解します。 RHA1株のPCB分解における課題として、分解過程で生じる中間産物が蓄積しPCBを効率よく分解できないことがあげられます。この解決策の一つとして、分解に関与する酵素量を多くすることにより分解系を強化する方法が考えられます。BphSTによる分解酵素遺伝子の転写活性化が強ければ、多くのmessenger RNA (mRNA)が作られて分解酵素がより多く生産されます。BphSTによる転写活性化の強化を行うためには、まずBphST転写活性化機構を明らかにしなければなりません。私はBphSTの転写制御機構を明らかにし、PCBを効率よく分解できる微生物の作出を目指して研究を行っています。これまでにBphT認識配列と考えられる共通配列が発見されています。この配列を改変することで分解遺伝子の転写をより強く活性化できると期待できることから、この配列の詳細な解析を行っています。
BphSTはビフェニルを認識して緑矢印の分解ステップに |
BphTはBphSによりリン酸化され、特定のDNA配列を認識して |