TA・RA

ガラクトースを持つ糖鎖分子の機能解明

名前と所属


熊谷忠弘 熊谷忠弘(Kumagai Tadahiro)
生物統合工学専攻 糖鎖生命工学研究室

学歴:
2004年 一関工業高等専門学校 制御情報工学科 卒業
2006年 長岡技術科学大学 生物機能工学課程 卒業
2008年 長岡技術科学大学 生物機能工学専攻 修了

研究内容

-β-1,4-ガラクトース転移酵素Vノックアウトマウスの解析-
我々の体は約60兆個の細胞から構成されており、その細胞表面にはタンパク質や脂質に結合した「糖鎖」が存在する。この糖鎖は、細胞と細胞の接着など様々な細胞同士のコミュニケーションにおいて、「ことば」として働いていることが明らかとなってきた。ガラクトース (Gal) という糖は、細胞表面に局在する主要な糖鎖抗原の基となる糖であることから、本研究室では、Galに注目し、糖鎖分子にGalを付加する新規の糖鎖遺伝子β-1,4-ガラクトース転移酵素V (β-1,4-GalT V) 遺伝子を単離してきた。さらに、細胞の癌化に伴いβ-1,4-GalT V遺伝子の発現が著しく増大すること、β-1,4-GalT V遺伝子を抑制するとマウス皮下における癌細胞の増殖が抑制されることを明らかにした。しかし、β-1,4-GalT Vが合成する糖鎖分子とその機能については不明な点が多い。β-1,4-GalT Vが作る糖鎖分子と機能を明らかにするために、β-1,4-GalT V遺伝子を破壊したマウス (KOマウス) を解析し、このKOマウスが胎児期に致死となることを見出した [T. Kumagai, et al., (2009) Biochem. Biophys. Res. Commun. 379: 456-459]。即ち、β-1,4-GalT Vが合成に関わるGalを含んだ糖鎖分子が、胎生期に重要な機能を担っていると考えられた。次に、KOマウス胎児を組織化学的に解析し、脳と心臓の基となる組織の発達に異常があることを見出した。また、β-1,4-GalT Vが作る糖鎖分子を明らかにするために、KOマウス胎児から樹立した初代培養細胞を生化学的に解析し、Galを糖鎖の末端に持つ糖脂質として知られるラクトシルセラミドの合成量とラクトシルセラミド合成活性が有意に減弱していること、ラクトシルセラミドを基に合成されるガングリオシドという糖脂質が殆ど失われていることを明らかにした。β-1,4-GalT Vは、ラクトシルセラミド生合成活性を持つと結論した。現在、β-1,4-GalT Vのより詳細な生理機能を明らかにするために、KOマウス胎児と初代培養細胞を用いた解析を続けている

 

Fig 1. β-1,4-ガラクトース転移酵素Vノックアウトマウスの形態
 β-1,4-ガラクトース転移酵素Vノックアウトマウス (-/-) は、発生遅延を伴い胎生10.5日 (E10.5) に致死となった。